1980年代終盤から数年間に日本で起こったバブル景気は、1990年ごろから景気が後退し、バブル経済も崩壊。それによって消費や雇用に悪影響を及ぼし、デフレになった。
かつて、そのような状況であった1990年代から2000年代初頭までの経済を「失われた10年」(平成不況)と呼んでいたが、2008年の世界金融危機(米国のサブプライムローン問題(サブプライム住宅ローン危機)に端を発するリーマン・ショックが発生したことがきっかけで、1990年代、2000年代以降の経済を合わせて「失われた20年」と変更して呼ぶようになった。
このリーマン・ショック後の最悪の状況からなんとか持ち直したかに見えた日本に、今年3月、東日本大震災が発生、しかも、震災以降、世界的に大きな問題が表面化した。
それは、昨・2010(平成22)年のギリシャの財政破綻の危機(ギリシャの経済参照)が発覚以来、EU(欧州連合)ではユーロ圏のイタリアやスペインの財政問題(※1の中の政府債務残高の推移の国際比較グラフなど参照)が話題となり、世界的に「ソブリン・リスク」(国家=ソブリンに対する信用リスク、※2参照)が高まってきたことだ。そして、EUの国だけでなく、米国債、日本国債も実際に格付け会社から格下げ(国債参照)されているが、今のような各国の財政状況を引き起こしたのは、リーマンショック時に、投機に夢中になっておかしくなっていた銀行や企業を救うために、国民の税金を使って国家が援助をし、それら企業の赤字を国が肩代わりしたことや、戦後、金も無いのに財力以上の福祉や社会保障に金をつぎ込んできたこと、破綻を仕掛けている国は、何処も親方日の丸の公務員天国である事などが共通している。・・・・ことは、先日(2011・11・10 )。このブログ「天皇陛下御在位60年記念硬貨が発行された日」でも簡単に触れておいた。
そのような中で、国際的に何処の国も今、財政状況が思わしくなく、国によってはデフォルト(債務不履行。※2参照)の危機さえ、囁かれている中で、東証1部上場会社で、 生産量基準では日本国内では日本製紙・王子製紙・王子板紙に次ぐ国内第4位の規模を持つ
大王子製紙の井川意高前会長の昨年5月〜今年9月に計26回にわたり、連結子会社から取締役会の承認を得ないまま無担保で計106億8千万円にのぼる借り入れをし、未返済額85億8千万円(株式での返却は拒否されため)にのぼる損害を与えたとして、告訴され(ほぼ全額がカジノでのギャンブルに使用されたと見られている)、東京地検特捜部に会社法の特別背任容疑で逮捕(特捜部は今年7月から9月の4社からの借り入れ7回、32億円の損害分を逮捕容疑)される事件(※3参照)があった。
冒頭貮掲載の図向かって左が「大王子製紙から前会長への貸付金の流れ」(2011・11・22、夕刊朝日新聞夕刊より)
また、大手光学機器メーカーオリンパスが、1990年代の財テクで生じた損失を有価証券の含み損を海外のファンド(fund。※4参照)などに売りはらって損失を付け替える「飛ばし」などの隠蔽工作を重ね、10年以上も不正決算を続け、今年・2011年3月期連結決算(連結決算の語は※2参照)で財務の健全性を示す純資産を300億円以上水増ししていたことがわかったという。この損失は、2001(平成13)年に新しい会計基準(※2:「金融経済用語集」の時価会計また、※5を参照)が導入されたことをきっかけに始められたことがわかっている(※6参照)。
冒頭掲載の図右が、オリンパスの損失隠しのイメージ図である(朝日新聞2011・11月16朝刊“ニュースがわからん!オリンパス問題の「飛ばし」って何?”より)。
『飛ばし』(※2:「金融経済用語集」の飛ばし参照)・・・と聞いて、1997(平成9)年11月24日(月曜日)に起こった大きな事件を思い出す。
同年の前日(11月23日、「勤労感謝の日」)が振替休日で休業日だったこの日は1日、異様な興奮が日本中を覆っていた。
先ず、未明に、サッカー日本代表チームがアジア最終予選でイラン戦に勝ち、初のワールドカップ(1998 FIFAワールドカップ)出場を決めた。日本時間では深夜の放送であったにもかかわらず、50%近い視聴率であり、この歴史的勝利に日本中が沸いていた(その感動的動画は※7で見れる)。
その余韻もまだ醒めない早朝、今度は北海道拓殖銀行が経営破綻した・・・と言う衝撃が日本列島を走った。
日本の資本主義の根幹(縁故資本主義参照)が揺らいだのが、1997(平成9)年とすれば、その混乱の頂点となったのが11月だった。
11月3日に準大手証券の三洋証券が経営難に陥り、会社更正法の適用を申請し、証券会社としては戦後初の倒産をした。この倒産自体はそれほど世間の注目を浴びたわけではなかったが、その後の金融市場に与えた影響は計り知れないものがある。
翌11月4日には、三洋証券に対する裁判所の資産保全命令により、インターバンクのコール市場(銀行間取引市場。※2参照)と債券レポ市場(※8参照)でデフォルト(債務不履行)が発生。戦後初の金融機関のデフォルトとなり、コール市場が疑心暗鬼・大混乱に陥った。
この信用収縮の余波を受け、11月17日には綱渡りで運転資金をやりくりしていた北海道拓殖銀行が都市銀行では初めての経営破綻となり、続いて、7日後の11月24日(月)、野村、日興、大和とともに当時、日本の4大証券の一角である山一證券が経営破綻(※15参照)し、自主廃業を大蔵省に届出のニュースは、日本列島に衝撃が駆け抜けた。
同日の午前11時30分、会長の五月女正治、顧問弁護士の相澤光江と共に東京証券取引所で記者会見に臨んだ社長の野澤正平は「私らが悪いんです。社員は悪くございません。」と泣きながら訴えた。その様子は当時のマスコミによって大々的に報じられたので誰の記憶にも残っているだろう。
この山一證券の経営破綻の引き金は資金繰りの悪化ではあったが、顧客の損失を転々とさせる今回のオリンパスがやったと同様の「飛ばし」(※2)が行き詰まり、山一自身が抱え込むことになって、膨大な簿外債務が出来たのが最大の原因であった。
この間に、「大手銀行だけは安心」という神話も崩れたことから、まだ破綻したわけでもない大手銀行や地方銀行に預金解約を求める長い行列が出来、静かな「取り付け騒ぎ」の状況もあり、金融機関同士の資金の融通さえままなら無い状態が続き、大蔵大臣や日銀総裁が何度も声明を出して、国民に冷静な行動を呼びかける様は「平成不況」を予感させた。
経済の血液である金融の分野が機能不全に陥った1997(平成9)年は、金融界が闇の精力と癒着していることが表面化した年でもあり、「総会屋」と呼ばれる特殊な株主に脅される型で、野村證券(※15参照)をはじめとする4大証券と大手都銀の第一勧業銀行(現みずほ銀行の前身)が利益供与(※8参照)を行なっていたとして東京地検特捜部が次々告発し、現役のトップを含め役員らを続々逮捕していったが、金融機関トップの腐敗は総会屋との癒着だけではなかった。
このような総会屋事件と並行するように日本債権信用銀行に対する“奉加帳方式による救済”(※6参照)、拓銀と北海道銀行(※15)の合併合意と白紙撤回(※7参照)、そして、日産生命保険の経営破綻(戦後初の保険会社の破綻)といった事件が表面化している。
これらは、全て、経営幹部が不良債権の処理を先送りし、決算を粉飾していた結果だった。
経営情報を仲間内だけで処理し、不利な情報には目をつぶり、闇の精力を使ってでも握り潰す。日本の資本主義の心臓部である金融界の膿が一気に噴出した年であったのだ。
この年、11月に入っての金融の混乱は日本発の世界恐慌(※9も参照)に発展する、との指摘もされ始め、そうした危機意識が住宅金融専門会社(住専)以来、タブーになっていた「公的資金」(※4にて公的資金も参照)の投入を政府に決断させ、世論にも受け入れさせる役割を果たした。
また、1999(平成11)年以降の大手銀行を核とした金融界の再編成は、この1997(平成9)年の「危機」がなければありえなかったといわれており、まさに、日本資本主義の分水嶺であったといえる。
だが、政策当局が「金融システム」(※10の金融システムを参照)という公共財をまもることを錦の御旗にしてしまった結果、一企業としての銀行に危機感を薄れさせてしまったともいえる。
翌1998(平成10)年の日本長期信用銀行(現新生銀行の前身)、日債銀(現あおぞら銀行の前身)の相次ぐ破綻・国有化と2000(平成12)年の小売業としては日本最大の負債総額を抱えてのそごう倒産(※11参照)に象徴される混乱は先延ばしされていた1997(平成9)年危機(※15参照)の帰結でもあった(アサヒクロニクル「週間20世紀」094)。
この1997(平成9)年危機については、以下参考の※12:「第2章 日本の金融危機と金融行政」や※13:「森崎研究室」経済学余滴の“総括・平成大不況”に詳しく書かれている。
その後、リーマンショックやギリシャ危機が発生したとは言え、日本政府の抱える国および地方の債務残高(国家財政の赤字)は過去最大(※1参照)となっており、未だに平成不況から脱出できないどころか、ますます悪化してきている。※13:「森崎研究室」経済学余滴の平成の不況は、なぜ長引いたのか?に不況からなかなか脱出できなかった原因がまとめられているが、今、又、政府が財務省の言いなりになって、当時と同じような過ちをしようとしているように思える。
今回のサブプライムに端を発するによるリーマンの破綻による不況も損害額の規模は全く違うとはいえ、日本の不動産バブル崩壊とよく似ている。ただショックによる危機を回避するために国が金融機関に税金の投入をしたのだが、山一は、「飛ばし」と呼ばれる形での大量の隠し不良債権を持っていたが当時、多くの銀行の債務超過が公然の秘密であったが、それを公的資金投入によって救済するため世間を納得させるために無理矢理破綻させたともいえるのに対し、リーマンのケースはそれを隠しに隠していた。そして、その損害額そのものも山一の500倍もあり、この桁違いの債務超過による破綻劇であったことから全世界の激しい信用収縮が始まったといえる(※14参照)。
前の「山一證券が自主廃業を決定」のブログでも書いたが、山一だけでなく、これら企業が損失隠しのため有価証券への虚偽記載をしているにもかかわらず、会社の取締役・監査役、それに、会計監査人である監査法人が知らなかったというよりも、黙認していたことが一番の問題であるが、今回の大王製紙事件やオリンパス事件を見ていても、今の時代になってもこれら一部上場の大手企業のガバナンス(corporate governance)に問題があることが、露見したことが一番問題視されなくてはならないのではないだろうか。
上場企業の決算書類が信用できないでは、金融市場がまともに機能するはずが無い。これら役員や監査法人の責任の追及されるべきだが、会社や代表取締役を監視し物言わなくてはならない立場のものがその会社から報酬を受けていたのでは、どうしても強い対場を貫きにくい。表面的な体裁だけを整えたような現在の会社法などを見直しをし、本当に有効な内部統制の強化をどのように構築するか検討しなければ、何時までもこのような不祥事が起こるのではないか。そうしなければ、日本企業の信用、それを許している日本の国の信用が問われるようになると思うのだが・・・。
参考:
※1:国家財政 - Yahoo!ニュース
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/budget/
※2:金融経済用語集
http://www.ifinance.ne.jp/glossary/
※3:大王製紙前会長への巨額融資問題- Yahoo!ニュース
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/daio_paper/
※4 :Yahoo!辞書
http://100.yahoo.co.jp/
※5:時価会計とは何か - 金融用語辞典
http://www.findai.com/yogo/0050.htm
※6:オリンパスに関するニュース- Yahoo!ニュース
http://news.search.yahoo.co.jp/search?rkf=2&p=%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%B9&ei=UTF-8
※7:[動画]日本代表 1997年11月16日『ジョホールバルの歓喜』
http://funfunfantasy.blog98.fc2.com/blog-entry-1268.html
※8:マネー辞典
http://m-words.jp/w/E582B5E588B8E383ACE3839DE5B882E5A0B4.html
※9:世界恐慌、1929年と現在の違い(1)Allabout
http://allabout.co.jp/gm/gc/293314/
※10:経済指標のかんどころ
http://www.cap.or.jp/~toukei/kandokoro/top/top1.html
※11:YouTube-そごう倒産 〜水島廣雄の「戦後」と「バブル」2 /2
http://www.youtube.com/watch?v=nxrqKx2ja1E
※12:第2章 日本の金融危機と金融行政(Adobe PDF)
http://www.esri.go.jp/jp/archive/sbubble/history/history_02/analysis_02_04_02.pdf#search='日本の金融危機と金融行政'
※13:森崎研究室
http://home.kanto-gakuin.ac.jp/~morisaki/
※14:リーマンと山一證券の破綻はスケールが全く違う 朝倉 慶氏
http://blog.goo.ne.jp/hitsuku/e/f528d4b1b2635354e27bd600f47fa244
※15:お金と沈滞した不況
http://www.okanetochintai.com/
ビジネス法務の部屋
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/
東電の救済案でよみがえる不良債権の悪夢
http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2011/04/post-314.php
1997年[ザ・20世紀]
http://www001.upp.so-net.ne.jp/fukushi/year/1997.html
北海道拓殖銀行の経営破綻
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2912/taku.htm
今日のことあれこれと・・・山一證券が自主廃業を決定
http://blog.goo.ne.jp/yousan02/e/89a0ea86810d2e5e687c93d2ea8f9a6a
山一証券、破産手続き きょう終了: 泥酔論説委員の日経の読み方「山一証券、破産手続き きょう終了」
http://deisui-nikkei.seesaa.net/article/210325879.html
山一證券- wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%80%E8%AD%89%E5%88%B8
税務会計用語辞典
http://www.keikazf4.com/zeimu/index.html
かつて、そのような状況であった1990年代から2000年代初頭までの経済を「失われた10年」(平成不況)と呼んでいたが、2008年の世界金融危機(米国のサブプライムローン問題(サブプライム住宅ローン危機)に端を発するリーマン・ショックが発生したことがきっかけで、1990年代、2000年代以降の経済を合わせて「失われた20年」と変更して呼ぶようになった。
このリーマン・ショック後の最悪の状況からなんとか持ち直したかに見えた日本に、今年3月、東日本大震災が発生、しかも、震災以降、世界的に大きな問題が表面化した。
それは、昨・2010(平成22)年のギリシャの財政破綻の危機(ギリシャの経済参照)が発覚以来、EU(欧州連合)ではユーロ圏のイタリアやスペインの財政問題(※1の中の政府債務残高の推移の国際比較グラフなど参照)が話題となり、世界的に「ソブリン・リスク」(国家=ソブリンに対する信用リスク、※2参照)が高まってきたことだ。そして、EUの国だけでなく、米国債、日本国債も実際に格付け会社から格下げ(国債参照)されているが、今のような各国の財政状況を引き起こしたのは、リーマンショック時に、投機に夢中になっておかしくなっていた銀行や企業を救うために、国民の税金を使って国家が援助をし、それら企業の赤字を国が肩代わりしたことや、戦後、金も無いのに財力以上の福祉や社会保障に金をつぎ込んできたこと、破綻を仕掛けている国は、何処も親方日の丸の公務員天国である事などが共通している。・・・・ことは、先日(2011・11・10 )。このブログ「天皇陛下御在位60年記念硬貨が発行された日」でも簡単に触れておいた。
そのような中で、国際的に何処の国も今、財政状況が思わしくなく、国によってはデフォルト(債務不履行。※2参照)の危機さえ、囁かれている中で、東証1部上場会社で、 生産量基準では日本国内では日本製紙・王子製紙・王子板紙に次ぐ国内第4位の規模を持つ
大王子製紙の井川意高前会長の昨年5月〜今年9月に計26回にわたり、連結子会社から取締役会の承認を得ないまま無担保で計106億8千万円にのぼる借り入れをし、未返済額85億8千万円(株式での返却は拒否されため)にのぼる損害を与えたとして、告訴され(ほぼ全額がカジノでのギャンブルに使用されたと見られている)、東京地検特捜部に会社法の特別背任容疑で逮捕(特捜部は今年7月から9月の4社からの借り入れ7回、32億円の損害分を逮捕容疑)される事件(※3参照)があった。
冒頭貮掲載の図向かって左が「大王子製紙から前会長への貸付金の流れ」(2011・11・22、夕刊朝日新聞夕刊より)
また、大手光学機器メーカーオリンパスが、1990年代の財テクで生じた損失を有価証券の含み損を海外のファンド(fund。※4参照)などに売りはらって損失を付け替える「飛ばし」などの隠蔽工作を重ね、10年以上も不正決算を続け、今年・2011年3月期連結決算(連結決算の語は※2参照)で財務の健全性を示す純資産を300億円以上水増ししていたことがわかったという。この損失は、2001(平成13)年に新しい会計基準(※2:「金融経済用語集」の時価会計また、※5を参照)が導入されたことをきっかけに始められたことがわかっている(※6参照)。
冒頭掲載の図右が、オリンパスの損失隠しのイメージ図である(朝日新聞2011・11月16朝刊“ニュースがわからん!オリンパス問題の「飛ばし」って何?”より)。
『飛ばし』(※2:「金融経済用語集」の飛ばし参照)・・・と聞いて、1997(平成9)年11月24日(月曜日)に起こった大きな事件を思い出す。
同年の前日(11月23日、「勤労感謝の日」)が振替休日で休業日だったこの日は1日、異様な興奮が日本中を覆っていた。
先ず、未明に、サッカー日本代表チームがアジア最終予選でイラン戦に勝ち、初のワールドカップ(1998 FIFAワールドカップ)出場を決めた。日本時間では深夜の放送であったにもかかわらず、50%近い視聴率であり、この歴史的勝利に日本中が沸いていた(その感動的動画は※7で見れる)。
その余韻もまだ醒めない早朝、今度は北海道拓殖銀行が経営破綻した・・・と言う衝撃が日本列島を走った。
日本の資本主義の根幹(縁故資本主義参照)が揺らいだのが、1997(平成9)年とすれば、その混乱の頂点となったのが11月だった。
11月3日に準大手証券の三洋証券が経営難に陥り、会社更正法の適用を申請し、証券会社としては戦後初の倒産をした。この倒産自体はそれほど世間の注目を浴びたわけではなかったが、その後の金融市場に与えた影響は計り知れないものがある。
翌11月4日には、三洋証券に対する裁判所の資産保全命令により、インターバンクのコール市場(銀行間取引市場。※2参照)と債券レポ市場(※8参照)でデフォルト(債務不履行)が発生。戦後初の金融機関のデフォルトとなり、コール市場が疑心暗鬼・大混乱に陥った。
この信用収縮の余波を受け、11月17日には綱渡りで運転資金をやりくりしていた北海道拓殖銀行が都市銀行では初めての経営破綻となり、続いて、7日後の11月24日(月)、野村、日興、大和とともに当時、日本の4大証券の一角である山一證券が経営破綻(※15参照)し、自主廃業を大蔵省に届出のニュースは、日本列島に衝撃が駆け抜けた。
同日の午前11時30分、会長の五月女正治、顧問弁護士の相澤光江と共に東京証券取引所で記者会見に臨んだ社長の野澤正平は「私らが悪いんです。社員は悪くございません。」と泣きながら訴えた。その様子は当時のマスコミによって大々的に報じられたので誰の記憶にも残っているだろう。
この山一證券の経営破綻の引き金は資金繰りの悪化ではあったが、顧客の損失を転々とさせる今回のオリンパスがやったと同様の「飛ばし」(※2)が行き詰まり、山一自身が抱え込むことになって、膨大な簿外債務が出来たのが最大の原因であった。
この間に、「大手銀行だけは安心」という神話も崩れたことから、まだ破綻したわけでもない大手銀行や地方銀行に預金解約を求める長い行列が出来、静かな「取り付け騒ぎ」の状況もあり、金融機関同士の資金の融通さえままなら無い状態が続き、大蔵大臣や日銀総裁が何度も声明を出して、国民に冷静な行動を呼びかける様は「平成不況」を予感させた。
経済の血液である金融の分野が機能不全に陥った1997(平成9)年は、金融界が闇の精力と癒着していることが表面化した年でもあり、「総会屋」と呼ばれる特殊な株主に脅される型で、野村證券(※15参照)をはじめとする4大証券と大手都銀の第一勧業銀行(現みずほ銀行の前身)が利益供与(※8参照)を行なっていたとして東京地検特捜部が次々告発し、現役のトップを含め役員らを続々逮捕していったが、金融機関トップの腐敗は総会屋との癒着だけではなかった。
このような総会屋事件と並行するように日本債権信用銀行に対する“奉加帳方式による救済”(※6参照)、拓銀と北海道銀行(※15)の合併合意と白紙撤回(※7参照)、そして、日産生命保険の経営破綻(戦後初の保険会社の破綻)といった事件が表面化している。
これらは、全て、経営幹部が不良債権の処理を先送りし、決算を粉飾していた結果だった。
経営情報を仲間内だけで処理し、不利な情報には目をつぶり、闇の精力を使ってでも握り潰す。日本の資本主義の心臓部である金融界の膿が一気に噴出した年であったのだ。
この年、11月に入っての金融の混乱は日本発の世界恐慌(※9も参照)に発展する、との指摘もされ始め、そうした危機意識が住宅金融専門会社(住専)以来、タブーになっていた「公的資金」(※4にて公的資金も参照)の投入を政府に決断させ、世論にも受け入れさせる役割を果たした。
また、1999(平成11)年以降の大手銀行を核とした金融界の再編成は、この1997(平成9)年の「危機」がなければありえなかったといわれており、まさに、日本資本主義の分水嶺であったといえる。
だが、政策当局が「金融システム」(※10の金融システムを参照)という公共財をまもることを錦の御旗にしてしまった結果、一企業としての銀行に危機感を薄れさせてしまったともいえる。
翌1998(平成10)年の日本長期信用銀行(現新生銀行の前身)、日債銀(現あおぞら銀行の前身)の相次ぐ破綻・国有化と2000(平成12)年の小売業としては日本最大の負債総額を抱えてのそごう倒産(※11参照)に象徴される混乱は先延ばしされていた1997(平成9)年危機(※15参照)の帰結でもあった(アサヒクロニクル「週間20世紀」094)。
この1997(平成9)年危機については、以下参考の※12:「第2章 日本の金融危機と金融行政」や※13:「森崎研究室」経済学余滴の“総括・平成大不況”に詳しく書かれている。
その後、リーマンショックやギリシャ危機が発生したとは言え、日本政府の抱える国および地方の債務残高(国家財政の赤字)は過去最大(※1参照)となっており、未だに平成不況から脱出できないどころか、ますます悪化してきている。※13:「森崎研究室」経済学余滴の平成の不況は、なぜ長引いたのか?に不況からなかなか脱出できなかった原因がまとめられているが、今、又、政府が財務省の言いなりになって、当時と同じような過ちをしようとしているように思える。
今回のサブプライムに端を発するによるリーマンの破綻による不況も損害額の規模は全く違うとはいえ、日本の不動産バブル崩壊とよく似ている。ただショックによる危機を回避するために国が金融機関に税金の投入をしたのだが、山一は、「飛ばし」と呼ばれる形での大量の隠し不良債権を持っていたが当時、多くの銀行の債務超過が公然の秘密であったが、それを公的資金投入によって救済するため世間を納得させるために無理矢理破綻させたともいえるのに対し、リーマンのケースはそれを隠しに隠していた。そして、その損害額そのものも山一の500倍もあり、この桁違いの債務超過による破綻劇であったことから全世界の激しい信用収縮が始まったといえる(※14参照)。
前の「山一證券が自主廃業を決定」のブログでも書いたが、山一だけでなく、これら企業が損失隠しのため有価証券への虚偽記載をしているにもかかわらず、会社の取締役・監査役、それに、会計監査人である監査法人が知らなかったというよりも、黙認していたことが一番の問題であるが、今回の大王製紙事件やオリンパス事件を見ていても、今の時代になってもこれら一部上場の大手企業のガバナンス(corporate governance)に問題があることが、露見したことが一番問題視されなくてはならないのではないだろうか。
上場企業の決算書類が信用できないでは、金融市場がまともに機能するはずが無い。これら役員や監査法人の責任の追及されるべきだが、会社や代表取締役を監視し物言わなくてはならない立場のものがその会社から報酬を受けていたのでは、どうしても強い対場を貫きにくい。表面的な体裁だけを整えたような現在の会社法などを見直しをし、本当に有効な内部統制の強化をどのように構築するか検討しなければ、何時までもこのような不祥事が起こるのではないか。そうしなければ、日本企業の信用、それを許している日本の国の信用が問われるようになると思うのだが・・・。
参考:
※1:国家財政 - Yahoo!ニュース
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/budget/
※2:金融経済用語集
http://www.ifinance.ne.jp/glossary/
※3:大王製紙前会長への巨額融資問題- Yahoo!ニュース
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/daio_paper/
※4 :Yahoo!辞書
http://100.yahoo.co.jp/
※5:時価会計とは何か - 金融用語辞典
http://www.findai.com/yogo/0050.htm
※6:オリンパスに関するニュース- Yahoo!ニュース
http://news.search.yahoo.co.jp/search?rkf=2&p=%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%B9&ei=UTF-8
※7:[動画]日本代表 1997年11月16日『ジョホールバルの歓喜』
http://funfunfantasy.blog98.fc2.com/blog-entry-1268.html
※8:マネー辞典
http://m-words.jp/w/E582B5E588B8E383ACE3839DE5B882E5A0B4.html
※9:世界恐慌、1929年と現在の違い(1)Allabout
http://allabout.co.jp/gm/gc/293314/
※10:経済指標のかんどころ
http://www.cap.or.jp/~toukei/kandokoro/top/top1.html
※11:YouTube-そごう倒産 〜水島廣雄の「戦後」と「バブル」2 /2
http://www.youtube.com/watch?v=nxrqKx2ja1E
※12:第2章 日本の金融危機と金融行政(Adobe PDF)
http://www.esri.go.jp/jp/archive/sbubble/history/history_02/analysis_02_04_02.pdf#search='日本の金融危機と金融行政'
※13:森崎研究室
http://home.kanto-gakuin.ac.jp/~morisaki/
※14:リーマンと山一證券の破綻はスケールが全く違う 朝倉 慶氏
http://blog.goo.ne.jp/hitsuku/e/f528d4b1b2635354e27bd600f47fa244
※15:お金と沈滞した不況
http://www.okanetochintai.com/
ビジネス法務の部屋
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/
東電の救済案でよみがえる不良債権の悪夢
http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2011/04/post-314.php
1997年[ザ・20世紀]
http://www001.upp.so-net.ne.jp/fukushi/year/1997.html
北海道拓殖銀行の経営破綻
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2912/taku.htm
今日のことあれこれと・・・山一證券が自主廃業を決定
http://blog.goo.ne.jp/yousan02/e/89a0ea86810d2e5e687c93d2ea8f9a6a
山一証券、破産手続き きょう終了: 泥酔論説委員の日経の読み方「山一証券、破産手続き きょう終了」
http://deisui-nikkei.seesaa.net/article/210325879.html
山一證券- wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%80%E8%AD%89%E5%88%B8
税務会計用語辞典
http://www.keikazf4.com/zeimu/index.html