日本記念日協会(*1)の今日・1月23日の記念日に、「六次産業の日」があった。
由緒書には以下のようにある。
酒屋「芋んちゅ」などの飲食店経営、食を通じた郷土活性化事業、フランチャイズのコンサルタント業務などを行う、愛知県名古屋市に本社を置く株式会社グロース・フード(*2)が制定したもので、日本の六次産業を盛り上げるのが目的。
六次産業とは農業や水産業などの一次産業、それらを加工する二次産業、そして販売、流通を手掛ける三次産業を統括して実施する産業のこと。日付は1と2と3で、一次産業×二次産業×三次産業で六次産業を意味している。・・・とあった。
人々が生活するうえで必要とされるものを生み出したり、提供したりする経済活動を産業と呼ぶが、現代の日本で、経済の中核をなしているのは、古典的産業分類でいうところの第三次産業と呼ばれるものであろうが、この「第三次産業」という用語は、イギリスの経済学者コーリン・クラークがその著『経済的進歩の諸条件』(1941年)において使い始めたといわれている。
これより先、英国の経済学者ウィリアム・ペティは,17世紀に一国の産業が農業(英:agriculture)から製造業(英:manufacturing industry),商業(英: commerce)へと発展するにつれて富裕になることを『政治算術』(1690年.)で指摘(ここ参照)。
コーリン・クラークは、これにヒントを得て一国の産業構造を、農業などの第一次産業、製造業などの第二次産業,商業・運輸などの第三次産業の三分類に大別し、経済(英: economy)の発展に伴い、国民経済に占める第一次産業の比重は次第に低下し、第二次産業、次いで第三次産業の比重が高まるということを示した。これは、両者にちなんで「ペティ=クラークの法則」と呼ばれている(ペティの法則)。
産業を第一次、第二次、第三次産業の三つに大別したコーリン・クラークの分類では、
第一次産業は、自然に直接、働きかける産業を指し、農業・林業・漁業(水産業の一種)、狩猟、鉱業などを言い、水産業の一種である水産加工のように天然資源(自然資源)を元に加工して食品を製造する業種は製造業に分類され、第一次産業には含まれない。
第二次産業は、第一次産業が採取・生産した原材料を加工して富を作り出す産業が分類され、製造業、建設業、電気、ガス業がこれに該当。
第三次産業は、第一次産業にも第二次産業にも分類されない産業が分類され、小売業やサービス業などの無形財がこれに該当。これらの産業は商品やサービスを分配することで富を創造することに特色がある。
ただ、クラークの産業分類に関しては、第三次産業に単純労働が含まれ、後進的な産業が先進的な産業と同じ扱いになっているという批判があるようだ。さらに、“マネジメントの父”と称されるピーター・ドラッカーもその著『イノベーションと企業家精神』の中で 構造変化がイノベーションの機会だと言っている(*3参照)が、経済発展につれて産業内部で生じている構造変化をとらえきれないという弱点がある。
ちなみに、産業構造に変化を及ぼす要因としては、次のことが挙げられている(*4:「経済指標のかんどころ」の第3章産業構造参照)。
(1)産業間の所得格差 … 技術革新によって生産性が高まると産業間に所得格差が生まれ、より高い所得を求めて産業間の労働力移動が起きる。第1次産業は第2次産業と比べて、技術革新によって生産が飛躍的に拡大する要素が少ない。
(2)需要構造の変化 … 所得水準が上昇すると消費構造が変化し、モノよりもサービスへの需要が増大する(*5の厚生労働省の『労働経済白書』の平成22年版 労働経済の分析-産業社会の変化と雇用・賃金の動向-の第2章 産業社会の変化と勤労者生活他それ以降の白書参照。)。
(3)国際関係 … 自国で生産するよりも外国で生産するものが安い商品は、輸入品が選択されることになり、その産業の国内でのウエイトは低下する。
(4)国の政策:日本の農業政策のように、政府による特定産業の保護育成政策が行われる場合がある。
また、第三次産業は、公益事業のような資本集約的な産業も、飲食業のような労働集約的な産業も、教育のような知識集約的な産業も含むという雑多な産業の集合体であり、中でも最近のサービス化はIT分野(*6参照)の比重が増しており、それが産業全体の生産性を高めるもの、と期待されているが、このような雑多な産業を単一のくくりで単純化することについても批判があるようだ。なお、近年この点に関しては、情報通信業などの情報や知識を取り扱う産業を第四次産業あるいは第五次産業として捉えなおす考え方も提唱されている。
逆に言えば、過去の古い「産業」や「分業」のイメージでは適用領域が狭い範囲に限られていたことを意味し、あるいはさらなる作業(特に知識や情報の生産流通のあり方)の細分化を知らずして社会学や経済学などが進められていたこと意味していたともいえるのかもしれない。
現在、日本で、産業を分類する基準として代表的なものに、「日本標準産業分類」(*7)がある。
日本標準産業分類は、統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又は提供に係るすべての経済活動を分類するものである。つまり、日本標準産業分類の目的は、統計調査の結果を産業別に表示する際の基準を設定することにある。
この日本標準産業分類における産業の定義は、事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又は提供に係るすべての経済活動をいう(総務省)。これには,営利的・非営利的活動を問わず,農業,建設業,製造業,卸売業,小売業,金融業,医療,福祉,教育,宗教,公務などが含まれる。なお,家庭内においてその構成員が家族を対象として行う生産・サービス活動は,ここでいう産業には含めない。
この分類の基準は、第一に、 生産される財貨又は提供されるサービスの種類(用途,機能など)。第二に、財貨生産又はサービス提供の方法(設備,技術など)。第三に、原材料の種類及び性質,サービスの対象及び取り扱われるもの(商品など)の種類である。
日本標準産業分類では、大分類、中分類、小分類、細分類の四段階構成となっている。直近では、平成25年(2013年)10月に改定(昭和24年=1949年10月の設定以後13回)がなされ平成26年4月1日より施行されている。その中で情報通信業は大分類Gに属している(その分類等は*7のここ参照)。
日本における分類では、慣例として、クラークが一次産業に分類している鉱業を二次産業に分類しており、第二次産業に分類している電気・ガス業が第三次産業に分類される点で異なっている。
第三次産業は現代の日本では経済の中核をなしているが、その複雑さ多様さゆえに経済統計の整備が最も遅れている産業である。工業統計調査(*8)のような全事業所を対象とするような調査は行われておらず、業界団体が出す資料しかない産業もある。そのため、複数の統計を加工して推測するしかないようだ。
第三次産業の活動を把握できる統計としては
国民経済計算(内閣府、*9参照)
第3次産業活動指数(経済産業省。*10参照)- なお、上記のような国際的な定義との違いに配慮し、電気・ガス・熱供給・水道業を除く指数を参考系列として公表している。
特定サービス産業実態調査(経済産業省。*11参照)
法人企業統計調査(財務省。*12参照) - ただし、金融を除く ・・・などがある。
さて、今日の記念日に登録されている六次産業のことであるが、六次産業とは、農業や水産業などの第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態を表す、農業経済学者の今村奈良臣が提唱した造語である。
流通とは商品やサービスが生産者からそれを使用する消費者へ流れていく過程であり、流通の役割には以下の3点がある。
1) 生産者と消費者を結び付ける(商取引)
2) 生産地と消費地の場所の違いを補う(輸送)
3)生産時と消費時の時間の違いを補う(保管)
流通部門は,消費者が生産者から財を直接購入しない限り,必ずそのサービスが必要な部門であり,その対価は流通マージンとして生産者価格とともに消費者によって支払われる。これは,消費者が消費財を購入する場合に限らず,産業が中間投入財や資本財を購入する場合も同様であり,流通部門は国内のあらゆる取引に介在する。
農業、水産業は、産業分類では第一次産業に分類され、農畜産物、水産物の生産を行うものとされている。だが、六次産業は、農畜産物、水産物の生産だけでなく、食品加工(第二次産業)、流通、販売(第三次産業)にも農業者が主体的かつ総合的に関わることによって、加工賃や流通マージンなどの今まで第二次・第三次産業の事業者が得ていた付加価値を、農業者自身が得ることによって農業を活性化させようというものである。また、このような経営の多角化を六次産業化と呼んでいる。
六次産業という名称は、もともとは、農業本来の第一次産業だけでなく、他の第二次・第三次産業を取り込むことから、第一次産業の1と第二次産業の2、第三次産業の3を足し算すると「6」になることをもじった造語であったらしいが、現在は、第一次産業である農業が衰退しては成り立たないこと、各産業の単なる寄せ集め(足し算)ではなく、有機的・総合的結合を図るとして掛け算であると今村氏が再提唱しているようだ(Wikipedia)。
農山漁村には、有形無形の豊富な様々な資源「地域資源」(農林水産物、バイオマス、自然エネルギー、風景・伝統文化など)が溢れている。
近年、ご当地ブーム、町おこし、地域ブランドに代表される地域活性化の試みにおいて特徴・素材となるものを地域資源として定義し、活用する考え方が広まっており、安倍内閣の新成長戦略(*14参照)に伴う経済成長戦略大綱関連3法案(ここ参照)のひとつ「地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律」(略称:中小企業地域資源活用促進法、 *15参照)が2007(平成19)年6月施行され、地域資源を活用した中小企業の事業計画を認定し、支援によって地域ブランド等の育成を計っている。
そのような中、農林水産業の六次産業化の推進が叫ばれた背景には、加工食品(*13)や外食の浸透に伴って消費者が食料品に支払う金額は増えてきたものの、それは原材料の加工や調理などによって原料価格に上乗せされた付加価値分が増えただけで、農林水産物の市場規模はほとんど変わらなかったことがあるようだ。付加価値を生み出す食品製造業や流通業、外食産業の多くが都市に立地し農山漁村が衰退していく中、農家などが加工や販売・サービスまで行って農林水産物の付加価値を高めることで、所得向上や雇用創出につなげることが目指された。
このような考えは、各地で実践を伴いながら広まりつつあり、農業経営などが多角化するだけでなく、商工業の事業者と連携する動きもある。こうした「農商工連携」に取り組もうとする動きを後押ししようと、2008(平成20)年に「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律(農商工等連携促進法)」(*16。*17参照)が制定されたのに加え、日本再生戦略の一環として六次産業化を推進するため2010(平成22 )年には六次産業化・地産地消法 (正式名称:「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(*18のここ参照)を成立させ、農林水産省が六次産業化する事業を認定し、補助金や情報提供などで支援ている。
なお、先に紹介の農商工等連携促進法と六次産業化法の主な相違点としては、
◎支援要件として、前者が中小企業者(*17のここ参照)と農林漁業者等が共同して事業計画を作成することを要する一方、後者は農林漁業者等だけで作成することが可能な点。
◎その他、支援措置について、前者の支援が主に金融支援であるのに対し、後者は、金融支援とともに、農地法、野菜生産出荷安定法(*18参照)や種苗法の特例等、幅広い支援を規定しているようだ。
そして、2012(平成24)年8月には、加工分野や販売分野への進出を金融面で支援する六次化ファンド法(株式会社農林漁業成長産業化支援機構法。平成24年法律第83号)が成立(*19の農林漁業成長産業化ファンド参照)。国と民間企業が共同出資でファンドをつくり、農林漁業者と食品会社などが共同でつくる企業に出融資する制度も創設された。
そのような努力もあって、六次産業化では、「自家生産米からどぶろく製造・販売」(北海道)「農産物の生産・加工と観光農園等による地域活性化と豊かな郷土づくり」(東北)「牧場でのジェラート製造・販売(関東)など、今年・2016(平成28)年1月14日現在での総合化事業計画の認定件数合計(累計)は、2,130件に上っている。内訳は、うち農畜産物関係が1,871件、林産物関係96件、水産物関係163件である。なお、総合化事業計画の認定件数の多い都道府県の上位5県は、1位は北海道120件、兵庫県100件、長野県91、件宮崎県82件、熊本県76件となっており、わが地元兵庫県が2位と健闘していた。以下参照。
農林水産省/フォトレポート:6次産業化取組事例100選
六次産業化の形態別の現状を見ると、農産物の輸出といったものもあるが、農産物の加工、農産物直売所、観光農園、農家民宿、農家レストラン、・・といったものがほとんどの様だ。
一次産業に携わる農業者が、二次産業の加工や三次産業の流通にも関わる「六次産業」化が今大きな流れになっている。目的は、農家の経営を多角化し収益率を高めることにある。
昨・2015(平成27)年に農林水産省や経済産業省などがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大筋合意内容結果の概要を公開してる(*20、*21参照)。
六次産業化は、TPPに屈しない日本の強い農業をつくるためにも必須だと言われている。
日本政策金融公庫が公表した「平成23年度 農業の6次産業化に関する調査」によると、六次産業化を行ったことで農業経営の7割強が所得向上を実感しているという。そのため、今後の経営展開についても、回答者の76.2%が規模を「拡大」すると回答しており、六次産業化への取り組みが定着したことを伺わせる。・・・という。以下参照。
6次産業化で農業経営の7割強が所得向上を実感 ... - 日本政策金融公庫
これを見ると良いことずくめのように見える六次産業化のようだが、六次産業化への課題はないのか。また、成功させる秘訣とは何か・・・等々は以下を参照。
平成24年度6次産業化等に関する調査 (詳細版) - 日本政策金融公庫
6次産業化の展開方向と課題 - 農林水産省
都会に住み、六次産業化の現実とはあまり接することのない私であるが、全国の主要な市場から新鮮な水産物を調達し、その調達力を活かした鮮魚専門店経営、寿司・魚惣菜の販売や、回転ずし・レストランの経営をしている会社の株を昨年買い最低単位で持っている。同社からは年に一度、株主優待として同社扱いの数の子が年末に貰えるが今年の正月食べたら質の良い美味しい品だったので満足いる。同社からは歳暮用の良品を株主割引価格で販売してもらえるのもメリットである。今年、新年早々より世界同時株安となっているが、幸いここの株は安い時に買ったし、業績も良いのだろう株価も結構高くなっており儲けさせてもらっている。今このような上場会社が多くみられるが、中には、経営が上手くいっていないのか、今までの株主優待を廃止してい閉まっているところがある。そんなところは去年売却しているので助かった。
世界同時株安に関するニュース-Yahoo!ニュース
地方色豊かな日本。その地方資源を活用して、良いものを安く(是非このことを忘れないように)私たち消費者に届けて欲しいものですね。
冒頭の画像は、農林水産省の「六次産業化支援策活用ガイド」平成27年9月版(PDF:7,586KB)です。
*1:日本記念日協会
http://www.kinenbi.gr.jp/
*2:Growth Food co,ltd
http://growthfood.c-saiyo.com/
*3: [ドラッカー]イノベーションのための7つの機会 | 石山経営戦略室
http://ishiyama-room.com/theory/druckers_7chances_for_innovation/
*4:経済指標のかんどころ
http://www.cap.or.jp/~toukei/kandokoro/top/top1.html
*5:統計情報・白書―厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/index.html
*6:IT業界がわかる、仕事入門 - 立命館大学
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ise/jobplayer/it/
*7:総務省|統計基準・統計分類|日本標準産業分類
http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/
*8:工業統計調査|経済産業省
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kougyo/
*9:国民経済計算(GDP統計) - 内閣府
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
*10:第3次産業活動指数(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sanzi/index.html
*11:特定サービス産業実態調査|経済産業省
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabizi/
*12:法人企業統計 : 財務省
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/
*13:加工食品 | e-ヘルスネット〔情報提供〕
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-017.html
*14:政府 新成長戦略の要旨 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO09482380Y0A610C1M10400/
*15 :中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO039.html
*16 :中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20HO038.html
*17:J-Net21農商工連携パーク
http://j-net21.smrj.go.jp/expand/noshoko/
*18:農林水産省/野菜生産出荷安定法
http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/y_law/
*19:第6チャネル(6次産業化ポータルサイト)
http://6-ch.jp/index.html
*20:TPP大筋合意について-農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/
*21:TPP(環太平洋パートナーシップ)(METI/経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade/tpp.html
第六次産業 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E5%85%AD%E6%AC%A1%E7%94%A3%E6%A5%AD
由緒書には以下のようにある。
酒屋「芋んちゅ」などの飲食店経営、食を通じた郷土活性化事業、フランチャイズのコンサルタント業務などを行う、愛知県名古屋市に本社を置く株式会社グロース・フード(*2)が制定したもので、日本の六次産業を盛り上げるのが目的。
六次産業とは農業や水産業などの一次産業、それらを加工する二次産業、そして販売、流通を手掛ける三次産業を統括して実施する産業のこと。日付は1と2と3で、一次産業×二次産業×三次産業で六次産業を意味している。・・・とあった。
人々が生活するうえで必要とされるものを生み出したり、提供したりする経済活動を産業と呼ぶが、現代の日本で、経済の中核をなしているのは、古典的産業分類でいうところの第三次産業と呼ばれるものであろうが、この「第三次産業」という用語は、イギリスの経済学者コーリン・クラークがその著『経済的進歩の諸条件』(1941年)において使い始めたといわれている。
これより先、英国の経済学者ウィリアム・ペティは,17世紀に一国の産業が農業(英:agriculture)から製造業(英:manufacturing industry),商業(英: commerce)へと発展するにつれて富裕になることを『政治算術』(1690年.)で指摘(ここ参照)。
コーリン・クラークは、これにヒントを得て一国の産業構造を、農業などの第一次産業、製造業などの第二次産業,商業・運輸などの第三次産業の三分類に大別し、経済(英: economy)の発展に伴い、国民経済に占める第一次産業の比重は次第に低下し、第二次産業、次いで第三次産業の比重が高まるということを示した。これは、両者にちなんで「ペティ=クラークの法則」と呼ばれている(ペティの法則)。
産業を第一次、第二次、第三次産業の三つに大別したコーリン・クラークの分類では、
第一次産業は、自然に直接、働きかける産業を指し、農業・林業・漁業(水産業の一種)、狩猟、鉱業などを言い、水産業の一種である水産加工のように天然資源(自然資源)を元に加工して食品を製造する業種は製造業に分類され、第一次産業には含まれない。
第二次産業は、第一次産業が採取・生産した原材料を加工して富を作り出す産業が分類され、製造業、建設業、電気、ガス業がこれに該当。
第三次産業は、第一次産業にも第二次産業にも分類されない産業が分類され、小売業やサービス業などの無形財がこれに該当。これらの産業は商品やサービスを分配することで富を創造することに特色がある。
ただ、クラークの産業分類に関しては、第三次産業に単純労働が含まれ、後進的な産業が先進的な産業と同じ扱いになっているという批判があるようだ。さらに、“マネジメントの父”と称されるピーター・ドラッカーもその著『イノベーションと企業家精神』の中で 構造変化がイノベーションの機会だと言っている(*3参照)が、経済発展につれて産業内部で生じている構造変化をとらえきれないという弱点がある。
ちなみに、産業構造に変化を及ぼす要因としては、次のことが挙げられている(*4:「経済指標のかんどころ」の第3章産業構造参照)。
(1)産業間の所得格差 … 技術革新によって生産性が高まると産業間に所得格差が生まれ、より高い所得を求めて産業間の労働力移動が起きる。第1次産業は第2次産業と比べて、技術革新によって生産が飛躍的に拡大する要素が少ない。
(2)需要構造の変化 … 所得水準が上昇すると消費構造が変化し、モノよりもサービスへの需要が増大する(*5の厚生労働省の『労働経済白書』の平成22年版 労働経済の分析-産業社会の変化と雇用・賃金の動向-の第2章 産業社会の変化と勤労者生活他それ以降の白書参照。)。
(3)国際関係 … 自国で生産するよりも外国で生産するものが安い商品は、輸入品が選択されることになり、その産業の国内でのウエイトは低下する。
(4)国の政策:日本の農業政策のように、政府による特定産業の保護育成政策が行われる場合がある。
また、第三次産業は、公益事業のような資本集約的な産業も、飲食業のような労働集約的な産業も、教育のような知識集約的な産業も含むという雑多な産業の集合体であり、中でも最近のサービス化はIT分野(*6参照)の比重が増しており、それが産業全体の生産性を高めるもの、と期待されているが、このような雑多な産業を単一のくくりで単純化することについても批判があるようだ。なお、近年この点に関しては、情報通信業などの情報や知識を取り扱う産業を第四次産業あるいは第五次産業として捉えなおす考え方も提唱されている。
逆に言えば、過去の古い「産業」や「分業」のイメージでは適用領域が狭い範囲に限られていたことを意味し、あるいはさらなる作業(特に知識や情報の生産流通のあり方)の細分化を知らずして社会学や経済学などが進められていたこと意味していたともいえるのかもしれない。
現在、日本で、産業を分類する基準として代表的なものに、「日本標準産業分類」(*7)がある。
日本標準産業分類は、統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又は提供に係るすべての経済活動を分類するものである。つまり、日本標準産業分類の目的は、統計調査の結果を産業別に表示する際の基準を設定することにある。
この日本標準産業分類における産業の定義は、事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又は提供に係るすべての経済活動をいう(総務省)。これには,営利的・非営利的活動を問わず,農業,建設業,製造業,卸売業,小売業,金融業,医療,福祉,教育,宗教,公務などが含まれる。なお,家庭内においてその構成員が家族を対象として行う生産・サービス活動は,ここでいう産業には含めない。
この分類の基準は、第一に、 生産される財貨又は提供されるサービスの種類(用途,機能など)。第二に、財貨生産又はサービス提供の方法(設備,技術など)。第三に、原材料の種類及び性質,サービスの対象及び取り扱われるもの(商品など)の種類である。
日本標準産業分類では、大分類、中分類、小分類、細分類の四段階構成となっている。直近では、平成25年(2013年)10月に改定(昭和24年=1949年10月の設定以後13回)がなされ平成26年4月1日より施行されている。その中で情報通信業は大分類Gに属している(その分類等は*7のここ参照)。
日本における分類では、慣例として、クラークが一次産業に分類している鉱業を二次産業に分類しており、第二次産業に分類している電気・ガス業が第三次産業に分類される点で異なっている。
第三次産業は現代の日本では経済の中核をなしているが、その複雑さ多様さゆえに経済統計の整備が最も遅れている産業である。工業統計調査(*8)のような全事業所を対象とするような調査は行われておらず、業界団体が出す資料しかない産業もある。そのため、複数の統計を加工して推測するしかないようだ。
第三次産業の活動を把握できる統計としては
国民経済計算(内閣府、*9参照)
第3次産業活動指数(経済産業省。*10参照)- なお、上記のような国際的な定義との違いに配慮し、電気・ガス・熱供給・水道業を除く指数を参考系列として公表している。
特定サービス産業実態調査(経済産業省。*11参照)
法人企業統計調査(財務省。*12参照) - ただし、金融を除く ・・・などがある。
さて、今日の記念日に登録されている六次産業のことであるが、六次産業とは、農業や水産業などの第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態を表す、農業経済学者の今村奈良臣が提唱した造語である。
流通とは商品やサービスが生産者からそれを使用する消費者へ流れていく過程であり、流通の役割には以下の3点がある。
1) 生産者と消費者を結び付ける(商取引)
2) 生産地と消費地の場所の違いを補う(輸送)
3)生産時と消費時の時間の違いを補う(保管)
流通部門は,消費者が生産者から財を直接購入しない限り,必ずそのサービスが必要な部門であり,その対価は流通マージンとして生産者価格とともに消費者によって支払われる。これは,消費者が消費財を購入する場合に限らず,産業が中間投入財や資本財を購入する場合も同様であり,流通部門は国内のあらゆる取引に介在する。
農業、水産業は、産業分類では第一次産業に分類され、農畜産物、水産物の生産を行うものとされている。だが、六次産業は、農畜産物、水産物の生産だけでなく、食品加工(第二次産業)、流通、販売(第三次産業)にも農業者が主体的かつ総合的に関わることによって、加工賃や流通マージンなどの今まで第二次・第三次産業の事業者が得ていた付加価値を、農業者自身が得ることによって農業を活性化させようというものである。また、このような経営の多角化を六次産業化と呼んでいる。
六次産業という名称は、もともとは、農業本来の第一次産業だけでなく、他の第二次・第三次産業を取り込むことから、第一次産業の1と第二次産業の2、第三次産業の3を足し算すると「6」になることをもじった造語であったらしいが、現在は、第一次産業である農業が衰退しては成り立たないこと、各産業の単なる寄せ集め(足し算)ではなく、有機的・総合的結合を図るとして掛け算であると今村氏が再提唱しているようだ(Wikipedia)。
農山漁村には、有形無形の豊富な様々な資源「地域資源」(農林水産物、バイオマス、自然エネルギー、風景・伝統文化など)が溢れている。
近年、ご当地ブーム、町おこし、地域ブランドに代表される地域活性化の試みにおいて特徴・素材となるものを地域資源として定義し、活用する考え方が広まっており、安倍内閣の新成長戦略(*14参照)に伴う経済成長戦略大綱関連3法案(ここ参照)のひとつ「地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律」(略称:中小企業地域資源活用促進法、 *15参照)が2007(平成19)年6月施行され、地域資源を活用した中小企業の事業計画を認定し、支援によって地域ブランド等の育成を計っている。
そのような中、農林水産業の六次産業化の推進が叫ばれた背景には、加工食品(*13)や外食の浸透に伴って消費者が食料品に支払う金額は増えてきたものの、それは原材料の加工や調理などによって原料価格に上乗せされた付加価値分が増えただけで、農林水産物の市場規模はほとんど変わらなかったことがあるようだ。付加価値を生み出す食品製造業や流通業、外食産業の多くが都市に立地し農山漁村が衰退していく中、農家などが加工や販売・サービスまで行って農林水産物の付加価値を高めることで、所得向上や雇用創出につなげることが目指された。
このような考えは、各地で実践を伴いながら広まりつつあり、農業経営などが多角化するだけでなく、商工業の事業者と連携する動きもある。こうした「農商工連携」に取り組もうとする動きを後押ししようと、2008(平成20)年に「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律(農商工等連携促進法)」(*16。*17参照)が制定されたのに加え、日本再生戦略の一環として六次産業化を推進するため2010(平成22 )年には六次産業化・地産地消法 (正式名称:「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(*18のここ参照)を成立させ、農林水産省が六次産業化する事業を認定し、補助金や情報提供などで支援ている。
なお、先に紹介の農商工等連携促進法と六次産業化法の主な相違点としては、
◎支援要件として、前者が中小企業者(*17のここ参照)と農林漁業者等が共同して事業計画を作成することを要する一方、後者は農林漁業者等だけで作成することが可能な点。
◎その他、支援措置について、前者の支援が主に金融支援であるのに対し、後者は、金融支援とともに、農地法、野菜生産出荷安定法(*18参照)や種苗法の特例等、幅広い支援を規定しているようだ。
そして、2012(平成24)年8月には、加工分野や販売分野への進出を金融面で支援する六次化ファンド法(株式会社農林漁業成長産業化支援機構法。平成24年法律第83号)が成立(*19の農林漁業成長産業化ファンド参照)。国と民間企業が共同出資でファンドをつくり、農林漁業者と食品会社などが共同でつくる企業に出融資する制度も創設された。
そのような努力もあって、六次産業化では、「自家生産米からどぶろく製造・販売」(北海道)「農産物の生産・加工と観光農園等による地域活性化と豊かな郷土づくり」(東北)「牧場でのジェラート製造・販売(関東)など、今年・2016(平成28)年1月14日現在での総合化事業計画の認定件数合計(累計)は、2,130件に上っている。内訳は、うち農畜産物関係が1,871件、林産物関係96件、水産物関係163件である。なお、総合化事業計画の認定件数の多い都道府県の上位5県は、1位は北海道120件、兵庫県100件、長野県91、件宮崎県82件、熊本県76件となっており、わが地元兵庫県が2位と健闘していた。以下参照。
農林水産省/フォトレポート:6次産業化取組事例100選
六次産業化の形態別の現状を見ると、農産物の輸出といったものもあるが、農産物の加工、農産物直売所、観光農園、農家民宿、農家レストラン、・・といったものがほとんどの様だ。
一次産業に携わる農業者が、二次産業の加工や三次産業の流通にも関わる「六次産業」化が今大きな流れになっている。目的は、農家の経営を多角化し収益率を高めることにある。
昨・2015(平成27)年に農林水産省や経済産業省などがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大筋合意内容結果の概要を公開してる(*20、*21参照)。
六次産業化は、TPPに屈しない日本の強い農業をつくるためにも必須だと言われている。
日本政策金融公庫が公表した「平成23年度 農業の6次産業化に関する調査」によると、六次産業化を行ったことで農業経営の7割強が所得向上を実感しているという。そのため、今後の経営展開についても、回答者の76.2%が規模を「拡大」すると回答しており、六次産業化への取り組みが定着したことを伺わせる。・・・という。以下参照。
6次産業化で農業経営の7割強が所得向上を実感 ... - 日本政策金融公庫
これを見ると良いことずくめのように見える六次産業化のようだが、六次産業化への課題はないのか。また、成功させる秘訣とは何か・・・等々は以下を参照。
平成24年度6次産業化等に関する調査 (詳細版) - 日本政策金融公庫
6次産業化の展開方向と課題 - 農林水産省
都会に住み、六次産業化の現実とはあまり接することのない私であるが、全国の主要な市場から新鮮な水産物を調達し、その調達力を活かした鮮魚専門店経営、寿司・魚惣菜の販売や、回転ずし・レストランの経営をしている会社の株を昨年買い最低単位で持っている。同社からは年に一度、株主優待として同社扱いの数の子が年末に貰えるが今年の正月食べたら質の良い美味しい品だったので満足いる。同社からは歳暮用の良品を株主割引価格で販売してもらえるのもメリットである。今年、新年早々より世界同時株安となっているが、幸いここの株は安い時に買ったし、業績も良いのだろう株価も結構高くなっており儲けさせてもらっている。今このような上場会社が多くみられるが、中には、経営が上手くいっていないのか、今までの株主優待を廃止してい閉まっているところがある。そんなところは去年売却しているので助かった。
世界同時株安に関するニュース-Yahoo!ニュース
地方色豊かな日本。その地方資源を活用して、良いものを安く(是非このことを忘れないように)私たち消費者に届けて欲しいものですね。
冒頭の画像は、農林水産省の「六次産業化支援策活用ガイド」平成27年9月版(PDF:7,586KB)です。
*1:日本記念日協会
http://www.kinenbi.gr.jp/
*2:Growth Food co,ltd
http://growthfood.c-saiyo.com/
*3: [ドラッカー]イノベーションのための7つの機会 | 石山経営戦略室
http://ishiyama-room.com/theory/druckers_7chances_for_innovation/
*4:経済指標のかんどころ
http://www.cap.or.jp/~toukei/kandokoro/top/top1.html
*5:統計情報・白書―厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/index.html
*6:IT業界がわかる、仕事入門 - 立命館大学
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ise/jobplayer/it/
*7:総務省|統計基準・統計分類|日本標準産業分類
http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/
*8:工業統計調査|経済産業省
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kougyo/
*9:国民経済計算(GDP統計) - 内閣府
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
*10:第3次産業活動指数(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sanzi/index.html
*11:特定サービス産業実態調査|経済産業省
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabizi/
*12:法人企業統計 : 財務省
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/
*13:加工食品 | e-ヘルスネット〔情報提供〕
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-017.html
*14:政府 新成長戦略の要旨 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO09482380Y0A610C1M10400/
*15 :中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO039.html
*16 :中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20HO038.html
*17:J-Net21農商工連携パーク
http://j-net21.smrj.go.jp/expand/noshoko/
*18:農林水産省/野菜生産出荷安定法
http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/y_law/
*19:第6チャネル(6次産業化ポータルサイト)
http://6-ch.jp/index.html
*20:TPP大筋合意について-農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/
*21:TPP(環太平洋パートナーシップ)(METI/経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade/tpp.html
第六次産業 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E5%85%AD%E6%AC%A1%E7%94%A3%E6%A5%AD